「ただでさえキョウに会った後はお前に会いたくなるんだ。それなのに上までのぼってきた理由が俺のことを知りたいからだって? (あお)ってんじゃねぇよ」

 すぐに指示通りに出来ないわたしに理由を口にするギン。

「え? あ、煽ってたわけじゃ――!?」

 わたしはギンの説明に恥ずかしくなって言い返す。

 すると目を閉じないわたしに業を煮やしたのか、「ッチ」と舌打ちをしたギンは片手を上げてきた。


 それに気づいたわたしは彼の手を掴んで止める。

「おい」

 イラついた、不機嫌な声。

 怒らせたいわけじゃなかったけれど、伝えたかったから。


「この手は、もういらないよ?」

「は?」

 わたしの言葉に眉を寄せるギン。

 その艶美(えんび)な顔に、わたしは手を伸ばした。


「雪華……?」

 わずかな戸惑いを乗せてわたしの名を呼ぶ美しい人。

 その頬に両手を添えて、視線を真っ直ぐ合わせる。


 オレンジがかったような赤みのある茶色の目。

 義父さんと同じその色の目は、義父さんとは違ってわたしを真っ直ぐ見てくれている。

 驚いたように軽く見開かれた目は、わたしだけを映してくれている。


 その瞳に吸い込まれるように、わたしはつま先立ちをして彼の唇に自分のそれを重ねた。