シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する

「兄さんが欲しいものが出来たと言ったのは7年前。優姫、君とは10年以上の付き合いだ。7年前に突然兄さんの一番になるとは思えない」

「……その7年前に何かがあって、突然彼の一番になったとは思わないの?」

「なくはないね。だから君と付き合ったんだ」

 あくまで淡々とした物言い。

 これは、本当に昨日まで仲の良かった2人なんだろうか?


「でも、兄さんの一番と思われる子の目星がついた。7年前に会ったのかどうかは知らないけれど、眞白との関係を考えたらなくはない話だ」

「……彼女は、違うわ……」

「それはこれから俺が自分で確かめるよ。……優姫は嘘つきだしね」

 苦笑する表情は優し気にも見えて……それが逆に怖かった。


「っ! 嘘なんて――」

「嘘だろう? 兄さんと付き合ってたなんて」

「っ!?」

「君の初めては俺が貰ったし? キスしてるところは見たけど、ちゃんと唇がくっついていたかまでは見えなかった」

 だから、嘘だろう? ともう一度繰り返す。


「っ……」

 そして優姫さんは押し黙り何も言わない。

 それは肯定のようにも受け取れて……。


「優姫、君は分かってるんだろう? 俺が何を求めているのか。だったら、どうして俺が別れようって言ったのかも分かるはずだ」

 まるで聞き分けのない子供を(さと)すかのような優しい声音。

 袖を掴んでいた優姫さんの手をやんわりと外した。