「梶白さん、悪いんだけどこの鍵時計塔に戻してきてくれないかな?」

 数日前と似たような光景に目を(しばたた)かせた。

 でも、同じく頼んできたクラスメイトの表情は前回とは違って本当に困っている様子。


「あたし今日日直でしょ? 水野先生に頼まれちゃって……。でも今日は部活の大事なミーティングがあるんだ。日誌とか書いてから鍵も戻しに行ってたら間に合わなそうで……」

 その様子には必死さもあって断りづらい。


 ギンに来るなって言われたんだけど……。


 前回のことを思い出す。

 時計塔の魔女だと思い込んで魅了されたとき、確かそう言われた気がする。

 でも……。


「ごめん、本当にお願い! 今度ジュースおごるからさ」

 必死で、本気で困っている様子。


 仕方ないよね。

「うん、いいよ。分かった」

 そう返事をして鍵を受け取った。

 断って変な軋轢(あつれき)を生みたくないし、さっさと置いてくれば問題ないよね。


「ありがとう! ジュースちゃんとおごるから!」

「いいって。そこまで気にしなくても」

 そう断ったけれど、彼女は何度もお礼を言ってから日誌を書くために自分の席に戻っていった。


「……うん、じゃあさっさと行ってこようかな」

 あまり遅くなると眞白を待たせちゃうしね。

 そうしてわたしは時計塔に行くために立ち上がった。