あはは、と屈託なく笑う野田さんに愛想笑いで返す。これもまたテンプレートみたいなものだ。

 しかし退社から五年。既に疎遠になっている総務の山下さんに、突然お祝いの連絡をすれば相手だって気まずく感じるのではないだろうか。それ以前に山下さんとは大して親しいと呼べる関係ではなかった。

 お祝いを伝えた後、何を話せばいいのだろう。うんざりする。会いたいと思わない。繋がりたいとも思わない。そういう人間が一定数いるということが野田さんにはイマイチわからないらしい。

『久しぶりにランチに行かない? 募る話もあるし、ゆっくりお喋りしたいな。私10日が休みなの。菜穂ちゃん、予定空いてる?』

「あ、うん……」

 ごめんねと適当な方便を口にすれば良かった。そう悔やむのはいつも後からだ。

 野田さんのことは嫌いじゃない。
 むしろ未だに付き合いの悪い自分を思い出し、気にかけてくれる野田さんには感謝もしているし、こんなふうにランチに誘ってくれるのは彼女くらいだ。

 せっかく久しぶりに電話をくれたんだし、と数秒の間に自分を説得した。