関係に名前を付けたがらない私たち

 でも耕平は、怒るでも、言い訳するでもなく、ただ、黙っている。
 これじゃまるで私が一人で大騒ぎしているような状態だ。怒りを通り越して、虚しくなっていた。

 何を言っても反論すらされないと、私の罵詈雑言も球切れを起こしてしまい、とうとう部屋に沈黙が落ちてしまった。

 今を必死に生きる蝉たちは、ここぞとばかりに大合唱を続けている。ワシャワシャ、ワシャワシャうるさくて仕方ない。すっかり伸び切って食べられたもんじゃなくなった素麺は、単なる白い塊と化していた。

「俺はあいぼんのこと好きだけど、あいぼんを幸せにする自信がない。というか俺には無理だと思う。だから幸せにしてもらえ」

―――他の男に。

 とは言わなかったけれど、要するにそういうことだ。他の男のところに行けってことなんだ。何それ。何なのそれ。

「……そうだね。もういい、耕平とはこれでおしまいだね」

 愛ってなんだろうね。
 自分につけられた名前が、この時ほど嫌いだと思ったことは後にも先にもない。

 私と耕平の恋愛はこの日、終わった―――