こげ茶の髪と目。

 整った顔立ち。

 もう会うことはないんだろうなと思っていたその人が、ピシッとスーツを着こなして目の前にいた。


 その人が俺に気づき、「やあ、渡瀬くん」と声を掛けてくる。

「な、んで……」

 どうしてこの人がこの学校にいるんだ?


「陽呂くん?」

 驚愕に満ちた俺の顔を見て、美夜が心配そうに見上げてくる。

 心配するなと言いたいけど、この人が何を目的にしてここにいるのか分からない以上警戒しないとならない。


「なんて顔してるんだ。私は一応君の命の恩人だろう?」

「え? 命の恩人って……じゃあもしかしてこの人が?」

 目の前で無害そうに微笑む男の言葉で、美夜が勘付く。


 そう、この目の前に突然現れた男は、死にかけた俺を吸血鬼にする事で助けた相手。

 月原 秀弥。

 元々得体の知れない相手ではあったけど、安藤さんに話を聞いてからはさらに得体が知れなくなった。


 一応感謝はしてる。

 この人のおかげで死なずにすんだし、そのおかげで美夜に出会えた。


 でも、やっぱり不信感は拭えなくて……。


「あら? 渡瀬くん、月原先生と知り合いなの?」

「……は?」

 気づかなかったけど、すぐ近くにいたらしい俺たちの担任の岸本先生がそう言って間に入ってくる。