ふわりと、馴染みのある爽やかな香りがした。

 あたしに取って、誰よりも落ち着けて……それでいてドキドキしてしまう人の香り。


 そっと振り返るように見上げると、やっぱりそれは陽呂くんだった。

「良かった……」

 あたしは小さく呟いて、フッと体の力を抜く。


 陽呂くんなら、大丈夫だから。

「来てくれてありがとう。陽呂くん」

 陽呂くんを名前で呼んでいるのは学校では内緒だから、あたしは颯くんに聞こえないようそっと陽呂くんにだけ伝えた。

 すると陽呂くんは一瞬だけあたしを優しい目で見てくれて、すぐに颯くんを睨みつける。


「なんだ!? って、渡瀬じゃんか。……なんだよ、どういうことだよ?」

 颯くんにとっては突然邪魔されたって状況だろう。

 だからか、彼は気色ばんで陽呂くんを睨んだ。


 でも陽呂くんは睨み返すだけで何も言わない。

 ただ、渡すものかというようにあたしを抱く力を強めていた。


 その行為は嬉しいけれど、ここは何か言わないと陽呂くん!


 内心突っ込んで、あたしは代わりに何か言わないとと考える。


 あたしが好きなのは陽呂くんだからって言えれば一番早く解決出来ると思うんだけれど……。

 でもあたしがそれを言っちゃっても良いのかな?