ドアが閉まると、深く息を吸う。

 気持ちを落ち着けないと、夜までもたないから。


 あたしは何度か深呼吸を繰り返して、やっと靴を脱いだ。

「ただいまー……」

 誰もいない家にあたしの声は吸い込まれていく。


 両親ともに仕事なんだからこの時間にいないのは当然だけれど……。

 でも、二人ともいつも夜は遅いか帰ってこない。


 お父さんは残業だったり出張だったり。

 お母さんは定時で帰れるんだけれど、あたしが高校に入ってからは別居しているおばあちゃんの介護があるからと中々帰ってこれない。


 そんな感じであたし達家族三人は中々会えてはいない。

 けれど、別に仲が悪いわけじゃない。

 ただ、他の家族に比べて淡白なだけだ。


 逆を言うと、離れていても信頼し合ってるとも言えるかな?


 ……まあ、そんな状況だから渡瀬くんと気軽に夜会えてしまったりしてるんだけれど。


 取り敢えず、あたしは夜に備えて宿題を終わらせる事から始めた。