陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく

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「さ、食べて食べて。出来合いで悪いけどねぇ……」

 少し申し訳なさそうに取り皿を渡してくるお母さん。


「仕方ないよ、忙しいんだから」

 今日は仕事もあっただろうし、このあとはまた介護が必要なおばあちゃんのところへ行かなきゃならないらしい。

 そんな中あたしが誕生日だからとごちそうだけでも一緒に食べようと準備してくれたんだ。

 手料理じゃないからって文句なんか言うわけがない。


「そうだよ。それに得意料理はいくつか作ってくれてるじゃないか」

 そう言ったのはお父さん。

 お父さんもこの後すぐまた出張で寝台列車に乗って向かわなきゃならないらしい。


 無理してお祝いなんかしなくていいって言ったのに……。


「いつも一緒にいられないんだから誕生日くらい祝わせろ」

 なんて言われてしまった。


 そうして久しぶりに家族で食卓を囲み、ケーキを食べて二人を見送る。


「いい? 何かあったらすぐにお隣に逃げ込むのよ?」

「美夜だったらどんなに深夜でも起きて受け入れるからって言ってくれてるからな、渡瀬さんは」

 玄関先で二人にそう念を押される。


 お母さんもだけど、お父さんも渡瀬さん夫婦への信頼が厚い。

 お父さんはあまりお隣さんと接する時間はなかったと思うのに……いつの間にそこまで信頼できるようになったんだろう?

 前に聞いたら複雑な表情をされただけで話してもらえなかった。


 ホント、何があったのかな?


 何はともあれ、心配しつつも二人は家を出ていった。