「月原さん、今日で教育実習終わるだろ?」

「ああ、そうだね」

「だから安藤さんが連行しに来るって言ってた」

「連行って……」


 あくまで話を聞くだけらしいから、手荒いことはしないだろうと陽呂くんは言う。


 月原先生が死にかけた人を吸血鬼にしている理由は自分の“唯一”を探すためだったし……。

 でもそれも徒労に終わっていると知った今は、もうむやみに人を吸血鬼にしたりしないだろうって。


 別に違反行為をしたわけじゃないから、そこら辺の事情を話せばすぐに開放されるだろうということだった。


「月原先生とはもう会うことはないのかな?」

「だろうな。きっとあの人は自分の“唯一”を探し続けるだろうから……」

 だから、もう用が無くなった自分達の前には現れないだろうって。

 その言葉に、あたしも納得した。


 だから、授業も全て終わって帰りのSHRでみんなに別れを告げる月原先生に、あたしは色んな意味を込めて「ありがとうございました」と伝える。

 優しく微笑んだ彼は、それきり振り返ることもなくあたし達の前から姿を消したんだ。



 見送って、あたしは気持ちを切り替える。

 今日は、あたしにとって特別な日。


 あたしの16歳の誕生日。

 ――陽呂くんとの約束の、金曜日だから……。