陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく

 声の人物に注目が集まる。

「月原先生? 今のはどういうことですか?」

 あたし達のクラスの担任である岸本先生が静かになったこの場で問い質している。

 月原先生は何でもないことのように静かに微笑んでいた。


「言葉の通りですよ? 渡瀬くんのことを放っておけず特訓をつけてあげたんです」

「一人の生徒に肩入れするのはダメだと伝えたはずですが?」

「そうですね。……分かっています」

 そう言って落ち込むような、申し訳なさそうな顔をした月原先生。

 岸本先生はため息をつきつつ、「報告はさせてもらいますから」とだけ伝えると周囲を見回した。


「そういうことらしいので、渡瀬くんはズルなんかしていません! 本人が頑張った結果です!」

 そう宣言してくれると、岸本先生は陽呂くんに向かって早く表彰式に出なさいと追い立てる。


 表彰式に関しても時間短縮の為なのか、それぞれの競技ごとに簡単に済ませられるようになっていた。

 総合優勝だけは閉会式に表彰されるらしいけれど。


 陽呂くんと颯くんの試合が長引いていたこともあり、この試合が最後だったらしい。

 陽呂くんは何か言いたそうにあたしを見たけれど、みんなを待たせている状態で引き留めるわけにもいかない。

 あたしは小さく手を振って行ってらっしゃいと送り出した。