「渡瀬……。正直お前がここまで出来るやつだとは思わなかったよ。やるじゃん」

　挑戦的に笑う颯くん。

　これがスポーツ漫画とかだったら、エースに認められた地味男って感じで物語が展開されていくのかもしれない。

　でも相手は陽呂くんだ。


　基本は陰キャで、出来るならスポーツなんて適当に済ませたいし、人付き合いなんて出来る限りしたくない。
　そんな人。

　そんな人だから、フードと前髪で隠れた彼の表情はメチャクチャ嫌そうな顔をしていた。

　まあ、あたしにしか分からないみたいだったけれど。


　でも陽呂くんは分かっているのかいないのか、その挑戦に答えるような言葉を放つ。

「……美夜は、渡さない」

　たぶんこれだけは言わないと、と思っていることを口にしただけ。

　でもその言葉だけを聞くと、挑戦を受けたように聞こえちゃうよ？


　案の定、颯くんはそう取ったみたいで「オレだってお前に渡したくないさ」なんて返していた。


　あああぁぁぁ……。

　色んな意味で頭を抱えたくなる。


　しかもそんなあたしを放っておいて周りは物凄く盛り上がるし。


「ひゃあぁ！　本当に取り合ってるんだ！　凄い、少女漫画見たい！」

「うっわ！　陰ヒロ言うじゃん。やれやれー！」


　この盛り上がり、ちゃんといい感じに収まってくれるといいんだけど……。

　儚い望みなのかもしれない……。