「言うに事欠いて素敵! ぷはっ! こんな暗そうなやつが素敵!?」

「ヤバ、マジウケる……。腹くるしーっ!」

 何を言っても馬鹿にされる状況が悔しい。

 悔しすぎて涙が滲んでくる。


 でも、それ以上に怒りの方が強かった。

 好きな人を馬鹿にされるのって、こんなに悔しくて腹が立つものだったんだね。


 陽呂くんは自他共に認める陰キャだし、それを否定するつもりはなかった。

 クラスメイトだって陽呂くんは“そういう人”という認識で、からかい交じりに暗いキャラだってことをいじることはあっても存在そのものを馬鹿にするような人はいなかった。

 もしかしたら内心では馬鹿にしている人もいるかもしれないけど、こんな風にあからさまなことはしない。


 だから、知らなかった。


 陽呂くんを馬鹿にされたら、あたしはこんなに怒りの感情に支配されてしまうなんて。

 これほどまでの感情、知らなかった。


「……うるさい」

「あはは……え?」

「うるさいって言ったんですよ」

 かろうじて、敬語だけは崩さなかった。

 その理性すら外してしまったら、あたしは自分が何をするか分からないと思ったから。


「……美夜?」

 陽呂くんが驚いた様子であたしを見る。

 今度はあたしの方がそんな彼の前に出た。