キミに一条の幸福を


「……だから、さ。芽衣子にも幸せなこと、起こるよ」

「え?」

 不愛想で口数が少ないはずの幼馴染。

 頑張って言葉を紡ごうとしている彼に、また視線が戻った。


「最近、落ち込んでただろ? だから、ゲン担ぎって言うか……気晴らしにっていうか……。とにかく、絶対良いことあるから」

 懸命に伝えようとしてくれる晴樹に、芽衣子は暖かい気持ちになる。

 イライラしていたのも、落ち込んでいたのが原因だってバレている。


(本当にもう、どうしてこの幼馴染は……)

「晴樹は、どうしてそこまであたしに寄り添ってくれるの?」

 ただの幼馴染にしては優しすぎる彼に、純粋な疑問として聞いてみた。

 その、返答は――。


「……お前な、あんだけ恋愛小説書いてるんだから……察しろよ」

「……」

 晴樹の顔は、耳まで赤かった。


 芽衣子は少しぎこちなく街の方に顔を戻す。

 “天使のはしご”はすでに無く、影を作る雲はまた別の方へと流れて行った。


 後に残るのは晴れ渡った空。

 少し茜色になってきている。


 そんな空を見上げる芽衣子の顔も、耳まで赤くなっていた。


END