そんな日常からの乖離(かいり)を戻してくれたのは日葵だった。


「美桜! おはよう」

 いつもよりずいぶんと早い時間に来たはずなのに、日葵もすでに登校していた。

「おはよう。日葵早いね?」

 フワフワした思考でそう聞くと、日葵は声を抑えて言う。


「昨日のこと、今日話すって言ってたでしょう?」

「あ……そっか」

 日葵の言葉で昨夜のことと今がつながる。

 非現実的に見えていた周囲の景色がハッキリとした。


「ねえ、場所変えよう? まだ人は少ないけど、教室じゃあちょっと……ね?」

 日葵の言葉にうなずく。

 黎華街の話なんて他の人に聞かれたらどうなるか分からないから。


 日葵に付いて行くようにして、人が来そうにない空き教室へ入った。

 ドアを閉めて、教室の中ほどまで来ると日葵が急に振り返り抱き着いてくる。


「っ良かったっ……」

「日葵?」

「無事だって連絡はしてくれたけど、やっぱりこの目で見るまで安心できなかったんだよ?」

 そして体を離してしっかりあたしを見る日葵。


「ケガしてない? あの後本当に何もなかったの?」

「大丈夫だよ。日葵こそ大丈夫? ちゃんと送ってもらえたの?」

 思った以上に心配してくれている親友に、あたしは紅夜とのことは話さないことにした。


 全部話したら余計な心配かけちゃう。

 お使いが終わったら真っ直ぐ帰れたことにしよう。


 そう決めてあたしは日葵の話を聞くことにした。