生まれたときからこの街にいると言った紅夜。

 彼がどんな人生を歩んできたかなんて想像もつかない。

 この街でどんなことをしているのかもよく知らない。


 ハッキリ言ってしまえば、得体の知れない存在。


 でも、それでもあたしは……。

「紅夜が悪いオトコだとしても、あたしは……」

 顔が歪む。

 泣きたい様な、笑いたい様な、変な気分。


 でも、心だけは一つだった。

「あたしは、もう――んっ」

 続きは言わせてもらえなかった。


 深く奪われた唇は、酸素ごと持っていかれた様で……。

 離れた後も呼吸するのが精いっぱいだった。


「続きは、ひと月以内に来たときに聞かせてもらうから」

 だから必ずおいで。

 そう言われた気がした……。



 その後は街の入り口で別れる。

 あたしを捕えた狼は、一度その手を離してくれた。



 そうして、あたしは紅夜のことが頭から離れない状態で一度家に帰るとすぐに学校に向かった。

 こっちの方が日常のはずなのに、なぜか非日常的に感じる。


 それほどに昨夜の出来事はあたしの身に刻み込まれていたみたいだ。