でも、この黎華街は危険な街。
 そう毎日のように来ていい場所じゃない。

 いくら好きな人に会うためとはいえ、そう簡単には来られないと思っていた。

「次は、また今度のお使いの時かと思っていたから……」


 危険な街だから、やっぱり月一くらいじゃないと来れないかと無意識に思っていた。

 それに、昨日の今日だとお母さんも心配するし、叔母さんにもそう毎日迷惑はかけられない。


「お使いって……月一だろ? 待てないんだけど?」

 冷たい瞳に不満の色が濃くなる。

 そうなると少し子供っぽく見えて、ちょっと可愛いと思ってしまった。


 ……あれ? でもあたし、紅夜にお使いが月に一度だって教えたっけ?


 不思議に思ったけれど、それを口にするより先に紅夜が話し出す。

「じゃあ、賭けをしようか?」

「賭け?」

「そう、その次のお使いまでにお前がこの街に来たら俺の勝ち。その日までに来なかったらお前の勝ち」

「紅夜が勝ったらどうなるの?」

 聞くと、引き寄せられて腰を抱かれ、顎を掴まれた。


 昨夜見た、狼の目があたしを見下ろす。

「俺が勝ったらもう離してやらない。俺が来いと言ったら絶対に来るんだ」

 今にも嚙みつかれそうな凶暴性を瞳の奥に見て、あたしはゴクリと(つば)を飲み込んだ。