「まあ、もう九時過ぎだからな。何か食わせてやるよ」

 そう言って紅夜さんはあたしの手を取ってまた歩き出す。

 あたしはそんな彼の歩調に合わせて早歩きで付いて行った。


「ああ、それと名前。俺は花守(はなもり) 紅夜(こうや)、さん付けとかいらないから紅夜って呼べよ」

「あ、はい」

「敬語も無しな。大して年変わらないだろ?」

「紅夜さん――紅夜は何歳なの?」

「18」

「じゅうはち……」

 自分の口の中でも繰り返して、納得できるような……でももう少し年上に見えるような。

 不思議な感じがした。


「あんたは?」

「あ、あたしは花宮(はなみや) 美桜(みお)。17歳になったばかり」

「美桜、ね。分かった」

 初めて紅夜から名前を呼ばれ、少しドキリとした。


 本当に、彼はあたしを頂くつもりなんだろうか?

 それを考えて、嫌だと思っていない自分に気が付く。


 誰かに頂かれるのは初めての経験なのに、そのこと自体に(わず)かな恐怖はあっても紅夜に対しての恐怖は無かった。

 あたしは、初めては好きな人とが良いと思っていたはず。


 紅夜のこと、好き……なのかな?


 つい数時間前に会ったばかりの人だ。

 そう簡単に好きになるものなんだろうか?