「そうか……じゃあ、美味しく頂かせてもらうとするか」

 あたしを抱える腕に、力が込められた気がした。

 紅夜さんの瞳の奥の光が、楽し気なものから欲望揺らめく炎へと変わる。


 食べられてしまう。

 それを実感したとき――。


 きゅるきゅるるる……

「……」

 突然の間抜けな音に、あたしは無言を貫く。


「……っくはっ!」

 でも、そんなあたしも含めてツボに入ってしまったらしい紅夜さん。

 くっくっと笑いながら力が入らなくなったのか「悪い、ちょっと自分で立って」と言ってあたしを下ろした。


 一応(こら)えようとしているのか、大笑いはしていない彼。

 その横に立つあたしは、さっきとは違う恥ずかしさで顔に熱を集めていた。


「っく、はは……。ここで腹なるとかっ……ウケる」

「……だって、夕方からここにきて何も食べてないんです……」

 言い訳を口にすると、更に笑われてしまった。


 でも、そうやって笑う紅夜さんは年相応と言うか……少し子供っぽく見えて……。

 少し警戒心が薄まった。