「……」

 睡眠?

 え? 寝てたの? この近くで?


 一先(ひとま)ずの危険が去ったからだろうか。

 あたしは助けてくれた彼の“睡眠”という言葉に反応してしまった。



 いや、今はそれどころじゃないんだけれど。


 思い直し、起き上がると日葵が駆け寄ってくる。

「美桜! だ、だいじょっぶ、なの?」

 震える声であたしの無事を確認してくる。


「大丈夫だよ」

 ――一応ね。



 安心させるために続く言葉は口にしなかったのに、日葵は結局泣き出してしまう。

 それを宥めながら、あたしは冷たい瞳を持つ彼と大柄な男の様子をうかがっていた。

「……睡眠? ここで寝てたのか?」

 大柄な男はさっきまでの淡々とした余裕は無くなっている様に見える。

 緊張しているのを誤魔化すかのように聞き返していた。



「この黎華街を取り仕切る総長とも言えるお前が?」

「え?」


 総長?

 黎華街を取り仕切る?


 この人が?

 この、花のような人が?


 男の言葉にキラキラ輝く彼を見る。

 その横顔も、鼻のラインから耳の形まで綺麗だった。

 雰囲気は冷たく、静か。

 太陽の下で咲くイメージの花とはかけ離れているというのに、どうしてかあたしは花に似ていると思った。