「っ紅夜!」

 いてもたってもいられず、あたしはそのまま紅夜の胸に飛び込み抱き着いた。

 拘束されているせいで抱き返してもらえないのが悲しい。


「紅夜、ごめんなさい」

 こうなる前に何とかしたかったけど、出来なかった。

 悔しい、と泣きつく。


 そんなあたしの額に紅夜は優しく唇を落とす。

 そして、零れ落ちる涙を吸い取った。


「気にするな、美桜のせいじゃない。考えが足りなかった俺達の方に非がある。……怖い思いさせて悪かったな」

「そんな、それはあたしだって――」

 考えが足りなかったのはあたしも同じだと、そう言いたかった。


 でも紅夜はあたしの言葉を遮るようにこめかみにキスをすると、小さく囁いた。

「ジャケットの胸ポケットに小瓶がある。それを口移しで飲ませてくれ」

「っ!」


 突然の指示に紅夜の顔を見上げる。


「テスト勉強のお礼、まだもらってなかったからな」

 そう言う紅夜にあたしは表情をくしゃりと歪ませた。


 あたしからキスをするという約束。

 何もこんなときにそれを使わなくてもと思う。


 でも、指示は何か考えがあってのことだろう。

 あたしはK達に見えない様に紅夜の胸ポケットから小瓶を取り出し口に含んだ。