「ロート・ブルーメ?」

「ああ。ドイツ語で赤い花って意味だ……。単純だろ?」

「……」


 シンプルと言えばシンプル。

 でもどんな感想を言えばいいのか分からなくて黙っていると、紅夜は続けて話す。


「この花が出来たときに、仮の名前として付けただけだったらしい。でも開発者が亡くなって、そのままになってしまったんだ」

 仮の名前なら単純なのも頷ける。

 そう思いながらあたしも花畑を見渡していると、淡々と重大なことを告げられた。


「この花は、俺の母親が開発したものらしい」

「え?」

「母親は美玲と同じ研究者らしくて、俺が産まれるギリギリまでこの花の開発を頑張ってたそうだ」


 それで、紅夜を産んで亡くなってしまった……。


「この花の根はな、薬になるんだ。ただ、少し毒性があるからそれを取り除くための研究を美玲がやってる」

「あ、だから《研究者》……?」

「そうだ。そして俺は本当は《管理者》って言うよりただの《管理人》。この花を育てて管理するための存在なんだよ」


 そう言った紅夜は悲しげにも見えたけれど、誇らしげでもあった。

「紅夜の、大切な仕事なんだね」

「ああ、俺にしか出来ない仕事だ」

「紅夜にしか?」


 いくらなんでも花を育てるだけなのにそれは言い過ぎなんじゃ、と思う。

 でも紅夜は真剣だった。