「別にそれで構わなかった。温もりは求めるだけ無駄なものだったから」

「そんな……」

 無駄だと言い切ってしまえる紅夜は、この街でどう過ごしてきたというのか。

 悲しい表情すら見せない彼に、泣きたくなった。


「そんな顔するな。今は、お前がいてくれるんだろ?」

「え?」

 また甘くとろける様な微笑みを向けられる。

 そのまま慈しむように、額にキスが降りた。


「…… マイナ・ゾンネ」

「え?」

「ドイツ語で、俺の太陽って意味。美桜は、俺に唯一温もりをくれる太陽だよ。……本物の太陽は、攻撃的だからな」

 と、優しげだけど少し皮肉げに笑う。

 そう言えば、太陽の光に弱いと言っていたっけ。


 でもそっか。

 あたしが紅夜の太陽なら……。


「じゃあ、あたしがいれば紅夜は綺麗に花を咲かせられるかな?」

 常々花のような人だと思っていたせいか、そんな言葉が出てきてしまった。

「え……?」

 不審そうな声が紅夜の口から漏れてハッとする。


 男の人に花とか、失礼だったかな?


「あ、ごめんね。初めて会ったときから何でか紅夜のこと花の様な人だと思ってたから……」

 だからついそんな言葉が出てきてしまったんだと誤魔化す。