よく考えたらそんなことを考えてしまうのもおかしいことだと気付いて、笑って誤魔化そうとした。

 でも――。


「――っ美桜……!」

 耐え切れないと言った様子の声を上げて突然紅夜に抱き締められる。

「っ! ……え?」

 どうして突然抱き締められたのか分からない。


 でも、苦しいほどに抱き締めてくる紅夜を拒むことは出来なかった。


 どれくらいそうしていたのか。

 しばらくしてふーっと息を吐くように力を抜いた紅夜。

 そうして見えた彼の表情は、初めて見る優しい顔をしていた。


「……悪い、苦しかったか?」

「え?」

「顔、赤い」

「あっ……」


 確かに少し苦しかった。

 でも、赤いのはきっと紅夜の初めて見せる表情のせい。


 だって、愛おしいものでも見るかの様に、どこまでも甘く優しい笑みだったから……。


「……おかしくないさ」

「え?」

「俺があのまま凍ってしまうんじゃないかと思ったってやつ」

「あ……」

「多分、それほど間違ってはいない。この街で温もりに触れることが出来ることなんてほぼない。だから俺は、ああやって怒っては常に心を凍らせてきた」

 淡々と、他人のことを話すように紅夜は語る。