「俺はこの街からほとんど出たことはないし、基本的に出ることはない。学校には通ったこともない」

 寂しさとか、悲しさとかの感情はない。

 ただ淡々と静かな声が言葉を紡ぐ。


「義務教育課程はホームスクーリングで教えてもらったし、伝手のある融通の利く学校に在籍だけはしていたから一応中卒までは学歴がある。あとは……いずれは高卒認定もらえるように勉強だけはしてるかな」

「そう、なんだ……」

 それしか言えなかった。


 怒っているわけでもなく悲しんでいるわけでもないのに『ごめん』というのは違う気がして……。

 だから、あたしは代わりに笑顔を向ける。


「教えてくれてありがとう、紅夜」

 謝罪の代わりに感謝を示す。


 でも、紅夜はそんなあたしに少し驚いたように目を開き、妖艶さをたたえた笑みに変える。


「いや……代わりに俺からも質問があるからな」

「質問? あたしに?」

 何が聞きたいんだろう?


「このリングと交換するって言ったあのヘアクリップ。大事なものって聞いたけど……なんで?」

「え?」

「誰かから貰ったもの、とか?」

「う、うん」

 聞かれるままに答えると、紅夜の目がスッと細められる。

 瞳の色が冷たさを帯び、視線が氷の蔦のように伸びてくる気がした。