「え? ああ……校則ってのがあるんだよな。じゃあ学校終わったらすぐつけろよ?」

 その戸惑いと言葉に、一瞬思考が停止する。

「……うん、分かった……」

 そう答えながら、湧いてきた疑問を口にしていいのか迷う。


 多分、紅夜は聞かれたく無いって思ってる。

 でも、あたしは紅夜のことならなんでも知りたい。


 普段のあたしなら、ここで相手の気持ちを優先して聞かずに終わらせる。

 でも、ここで終わらせたらきっと紅夜のことを知らずに過ごすことになる。

 次に機会があっても、多分同じことをしてしまう。


 それが確信出来てしまったから……。


「紅夜は……学校に行ったことないの?」

「……」

 生まれたときから黎華街に住んでいると言った紅夜。

 この街には学校なんて無い。

 街から出られないと言った彼は、どうしていたんだろう。


「……」
「……」

 沈黙が重い。

 特に怒ったりしている雰囲気は感じないけれど、やっぱり聞かれたくなかったことなんだろうってのは分かった。


 沈黙に耐え切れなくなって、答えなくても良いと言おうとすると――。

「……学校は、行ったことないよ」

 静かな声音で答えてくれた。