宇宙に存在する星のひとつ。地球。国は日本。場所は東京都。


そこまで決めると後は簡単だった。


どこにでもいる一人のサラリーマン。歳は40前後で、シワシワのジャケットにシミの付いたシャツを見ると、一人身なのは一目瞭然。ターゲットはこの男に決定だ。


「あっちぃ」


会社帰りの山梨幸男はそう呟くと、ネクタイを緩め、第一ボタンを外した。


もう夕方六時を過ぎていると言っても、真夏の六時はまだまだ明るく、そして熱い。


幸男は自分のアパートのすぐ近くまで来て、大きく眉間にシワを寄せた。


大家のくそばばぁめ、今日も揚げ物だな。匂いがキツイ上に温暖化に貢献しやがって。


心の中で文句を言うが、実際に口に出したことはない。


その匂いのキツイ揚げ物も、一人身の幸男に『作りすぎたから』と言って持ってきてくれる時が多々ある。


このくらいで文句を言っておすそ分けがなくなってしまうのは非常に困る。