甘い毒に溺れ堕ちて

とっさに上を向き、こぼれ落ちそうになるのをこらえる。


泣かない。泣いてはいけない。

心の中では泣いても、涙は絶対流しちゃダメ。


今ここで泣くのは……素直になるのは、私じゃないから。


涙が引いた後、ゆっくり顔を戻して、彼と目を合わせる。



「……おばあさんが家を飛び出した理由は聞いた?」

「いや……何も聞いてないけど」

「行き先も知らない?」

「うん。どっか行こうとしてたら道に迷ったとしか」



あぁ、やっぱり。

虎珀さんは、行き先こそは知ってはいたものの、行動に至った経緯までは知らなかった。


伝えなかったのは、きっと……。



「何か知ってるの?」

「……あの日、幼稚園に行くところだったんだって」



行き先を明かしたら、黒い瞳が丸く大きく見開かれた。



「よう、ちえん、って……」

「お孫さんのお迎えに。テレビ観てたら、息子さん……虎珀さんに頼まれてたのを思い出したんだって」