でも、それでも言えることはある。

「幹人くんは、あたしを大事にしてくれてるのよ」

 抱かれるどころかキスもまだだけれど、それは幹人くんがあたし相手だと緊張してしまうから。

 緊張するくらい、大事にしてくれているからだ。

「大事ねぇ……」

 でもそんな言葉も橋場にとっては嘲笑するべきものだったらしい。


「大事にした結果、こうして奪われてちゃあ意味ねぇよな?」

 言葉を終えると、橋場はあたしの顎をガシッと掴んだ。

「いっ」

 痛みに顔を歪ませている間に、橋場の顔が近付く。

「今はお前が誰のものなのか、見せつけてやるよ……お前の彼氏とやらにな」

 そう口にした唇が降りてくる。

「やめっ」

 拒絶したいけれど、顔はしっかり固定されて動かせない。

 さっき自分からしなきゃならなかったときも嫌ではあったけれど、幹人くんの前で唇を奪われるのはもっと嫌だ。

 見ないでっ!

 幹人くんの方を向けないあたしは、それだけを願った。


 でも。


「離せっつてんだろうがよ!」

 ガッ

 幹人くんの怒りの声が思ったより近くから聞こえた。
 同時に殴るような音が聞こえたと思ったら、あたしは橋場じゃなくて幹人くんの腕の中にいたんだ。