「久保く――幹人?」

 思わずまた苗字呼びしそうになって、慌てて名前で呼ぶ。

「ちょっ! 待った。……ダメだ、刺激が強すぎる……」

 胸を押さえていた手をあたしに向けてストップのジェスチャー。

 でも刺激って……名前呼んだだけだよ⁉

 ある意味さっきのおでこにキスの方が刺激になるんじゃないの?


 困惑しながらもあたしは彼が落ち着くのを待った。

「ふぅー……悪ぃ」

 大きく息を吐いて体を起こすと、気まずげに謝られる。

 まあ、それもそうだ。

 名前で呼んで欲しいと言ったのは彼なんだから。

「いいけど……でも名前で呼んだらそうなっちゃうとか。どうすればいいの?」

「……くん付けで」

 気まずそうなまま申し出られた。

 でもせっかくの提案なので実践してみる。


「……幹人くん?」

「っ! お、おう」

 くん付けなら確かにうずくまったりはしないみたい。
 ちょっとは照れ臭そうではあるけれど、こっちならそのうち慣れてくれそうな感じだ。

 まあ、あたしもくん付けの方が照れずに言えそうだからいいけど。

「じゃあ、幹人くんって呼ぶね」
「ああ」

 そうして、その後もあたしたちは他愛のない話を続けた。

 手を繋いで、恋人同士になったんだと実感しながら。