「俺からも頼みがあるんだけど……」
「頼み? 何?」

 聞き返すあたしに、久保くんは顔をそらしたまま視線だけをこちらに向ける。

「その……俺のこと、名前で呼んでくんねぇ?」
「へ?」

 考えてもいなかった頼みに間抜けな声が出てしまう。

「だってお前、同級で俺のことだけ苗字呼びしてるだろ?」

「……あ」

 言われて初めて気付いた。
 完全に無意識だった。

 女友達は当然のように名前呼びだし、勇人くんと明人くんは当然ながら同じ苗字だから名前呼びするしかない。

 高志くんは……確かはじめ苗字知らなかったから名前呼びしてそのまま……。


 確かに、久保くんだけ苗字呼びしていた。

「あ、そうだね。そういえば久保くんだけ名前で呼んでなかった」

 他の男の子は名前呼びしてるのに彼氏だけ苗字呼びっていうのは私的にもどうかと思う。

「じゃあ、えっと……」

 今まで苗字で呼んでいた人のことを名前で呼ぶというのは普通に照れ臭い。
 増してや彼氏。
 気恥ずかしさに自然と頬が赤らんだ。


「み……幹人?」
「ぐふっ!」

 頑張って呼び捨ててみたのに、彼は喜ぶどころか胸を押さえてうずくまってしまう。