「大人になればまた好きな相手も変わるかもしれないだろう? だから今回は彼に譲るってだけさ」

「譲るって……」

 呆気に取られていると、隣の久保くんが「は?」と怒りを滲ませた声を上げた。

「美来はものじゃねぇっすよ? 譲るとか……そういう言い方しないでくれないっすか?」

「……久保くん」

 そんな些細な言い回しにも反応してくれる久保くんに、トクンと優しく胸が鳴る。

 それほど思ってくれているんだと、嬉しくなった。


「……そっか。そうだね、すまなかった。……でも、そうか……。そんな君だから、美来さんは選んだんだね」

 最後の方は小さく呟いた坂本先輩。
 その表情は演技でも何でもない寂しそうな笑みだった。

「坂本先輩?」

 でも、あたしが呼び掛けるとすぐに普段の王子スマイルに戻った。


「まあとにかく、高志をここまで運んでくれてありがとう。司狼には言っておくから、たまには早く帰ってゆっくりするといい」

 そんな言葉で締めくくり、坂本先輩はあたしたちを保健室から追い出したのだった。