「大丈夫! 前にノブさんがうっかり間違えて入ってきたことあるんだけど、その報復に色々やったからさ。それ見てたこの家の住人なら同じ轍は踏まないって!」

 もちろん銀星もね、と自信満々に宣言する遥華に、逆にそう思わせるほどの報復とは何をしたのかと気になった。

「……ちなみに、何したの?」

「ん? えーっと、ノブさんの食事にメッチャ胡椒や唐辛子振りかけたり、靴に画鋲仕込んでみたり……」

 つらつらと上げられる事例は、地味ながらもじわじわダメージを食らうようなものばかり。

「泣いて土下座して謝ってくるまでそれ続けたからね。おかげであたしを怒らせたら酷い目に遭うってみんな学習してくれたみたい」

「そ、そっか……」


 ニッコリ笑顔の遥華に、あたしはどんな顔をすればいいのか分からなかった。

 でもまあ、ここの人たち相手にはそれくらいの方が分かりやすくていいのかも知れない。


「まあでも、そんなに心配なら念のためタオル巻いて入ろうか? 公共の施設ならダメだけど、個人の温泉だから」

「そうだね。そうしようかな」

 そんな話をしながら露天風呂に続く脱衣所につく。

 すると遥華はどこからか札を取り出して脱衣所のドアの前にかけた。


 その札には。

《遥華入浴中。入ってきたらぶっコロす!》

 と、殺意のこもった字面(じづら)で書かれていた。