「何であんなこと言っちゃうのー?」

 場所を遥華の自室に変え、あたしは恨めし気に彼女を見た。

「あれ? 言っちゃダメだった?」

 冷たいお茶を出してくれながら遥華はキョトンと目を丸める。
 いつもよりメイクが控えめなのでその表情は特に可愛らしく見えた。

「ダメってわけじゃないけど……わざわざ言う事でもないでしょう?」

 遥華は場の空気を明るくしようとしただけだろうし、あたしも別に何が何でも隠そうとしているわけじゃない。

 でも、久保くんの父親に知られるとなるとまた別の恥ずかしさが沸き上がる。

 やっぱり、あえて話題にしなくても良かったんじゃないかとは思う。


「ごめんね?」

 遥華は謝りながら困ったように笑っているけれど、その目には少し不安が宿っていた。

 あたしが遥華を拒絶しないか気にしているような不安。

 明るくグイグイ来る遥華の性格はそんな不安を隠すためのものなのかもしれない。


 その不安をあたしには見せてくれるってことは、それだけ近しく思ってくれてるってことだろう。

 それが分かったから、あたしは一つ息を吐いて笑顔で許した。


「うん、謝ってくれたから良いよ。恥ずかしかったけど、別に隠したかったわけでもないから」

「そう? ありがとう」