「うん……」

「でもね、ここに住むようになったら……それまでいた友達がみんな離れて行っちゃって……」

「遥華……」

 段々嗚咽交じりになってきた遥華の背中を撫でる。

 似た立場になったことはないから、本当の意味で彼女の気持ちを理解することは出来ない。
 でも、ちょっとだけ分かる気がした。

 自分は何も変わらないのに、周りが勝手に判断して離れて行ってしまったときの気持ちは。

 状況は違うけれど、似たような思いをしたことはあったから……。


「不良ばっかりの南校ですらさ、高峰組って聞いただけでビビるんだもん。だから家に呼べるほど仲の良い友達もいなくてさ」

 そう言って顔を上げた遥華は悲しそうに笑う。

 でもその悲しみが優しくほぐれていくように嬉しそうな笑みに変わった。


「だから美来が泊るって言ってくれて本当に嬉しいの。ありがとね」

「……ううん、お礼を言われるほどのことじゃないよ。……じゃあ、案内してくれる? この家広そうだし」

「あはは、確かに広いね。じゃあ迷わないようにあたしについて来てね!」

 まなじりに残る涙をぬぐった遥華は、いつもの元気を取り戻すとそう言ってあたしの手を引いて門の中に入って行く。

 あたしは緊張しながらも、ためらうことなく足を進めた。