あまりにも当然のように言われて久保くんはうっかり了承の返事をしてから疑問の声を上げた。

 でも一度了承したものを覆すのを奏が許すはずもなく……。


「あ、良いんだな? サンキュー、助かったよ」

 断りの言葉が出てくる前に笑顔で押し通していた。

「は? え? なぁっ⁉」

 混乱しているうちに押し切られた久保くんは言葉にならない声を出し続ける。


「奏……」

 あたしは強引な兄にジトッと湿り気を帯びた視線を送ったけれど、彼は「ん?」と一見爽やかにも見える笑みをあたしに向ける。

 ……いや、あたしにまで笑顔で押し通さなくても良いでしょ。


「はぁ……まあ、別に構わねぇけどよぉ……」

 いまだに少し寝ぐせがついたままの頭を搔きながら、久保くんが諦めの言葉を口にする。

 そしてあたしに向き直った。


「で? それなら美来はどうすんだ? 流石に俺の家は無理だぞ?……色んな意味で」

 “色んな”というところで少し頬を染めていた久保くんを不思議に思いつつ、あたしは確かにどうしようと悩む。
 久保くんに言われずとも、男の子の家に転がり込むわけにはいかないし……。


 助けを求めるようにさっさと自分の宿泊先を決めてしまった奏に視線を送ると。

「とりあえず女友達片っ端から当たってみれば?」

「まあ、それしかないかぁ……」

 ホテルに泊まるっていう手もないわけじゃないけれど、そんな無駄なお金は使いたくなかったし。