内心苦笑いだ。

 触れるのすら緊張してしまうほどの純情になるとか誰が予想出来る?

 しかも他の女なんて全く眼中になくなって、一途なほど美来しか見なくなった。

 触れるどころか、まともに会話するのも時間がかかったみたいだしスローペースにもほどがある。


 ……でも、恋に臆病になっていた美来にはそのスローペースが丁度良かったんだろう。


 それに、そうやって少しずつ近づいていく過程で久保は美来の泣き場所になったりと心の拠り所になって行った。

 美来の前でも後ろでもなく、隣にいたいと言った久保。

 一途に美来しか見なくなったあいつなら、俺もいいと思った。


 まあ、ちょっと頼りないところはあるけどな。


「え? な、なんで久保くんの名前が出てくるのかなっ⁉」

「声裏返ってるし……お前のことなんてお見通しなんだよ」

「うっ……」

 押し黙る美来にフッと笑みを見せて俺は背中を押した。

「大丈夫だから、お前はちゃんと自分の気持ちを大事にしろ」

「……ん、分かった」


 ホッとして頷いた美来からノートパソコンに視線を戻し、俺は作業を再開させる。

 美来の恋が邪魔されないように、あいつらに居場所を特定されないように。

 地道な作業に精を出した。