「久保くん!」

 階段までの間で名前を呼ぶと、ちゃんと止まってくれる。

 あたしが追いつくと同時に振り返った彼は、明らかに気まずそうだった。


「えっと……昨日のことなんだけど……」

 そう切り出しながらもどうしたらいいのかと迷う。

 でも、その言葉に久保くんはすぐに反応して「ストップ!」と止めるように手のひらをあたしに向けた。


「昨日のことは忘れてくれ。……いや、やっぱ忘れなくて良いんだけどよ!」

 久保くん自身いまだに整理が出来ていないのか、自分の言葉を言ったそばから否定している。

「その、別に隠してたわけじゃねぇし……。でもな、流石にあんな状況でお前に伝わるとかねぇだろ?」

「え……あ、うん」

 普通に考えても、あんなところに人が隠れてるなんて状況滅多にないし。
 ましてや話題にしている本人がいるなんて考えもしないと思う。

「だから、ちゃんと仕切り直しさせてくれ。返事がどんなものだとしても……流石にあれが告白になったとか嫌だからな」

 後頭部を掻いて視線を泳がせながら頼んでくる久保くんが何だかちょっと可愛く見えて……あたしはさっきまで感じていたモヤモヤやイライラが完全に消えていく気がした。
 八神さんのおかげで落ち着いたけれど、まだ少しくすぶっていたから……。