「……ああ……やっぱり君はとても美しくて可愛らしいな」

 エスコートしてくれるはずの坂本先輩は、そう言って甘さと妖しさを宿らせた目をあたしに向けてくる。

「えっと……坂本先輩?」

 笑顔は崩さないようにしながら、進んでくれないことを軽く非難するように名前を呼んだ。

 でも非難の色は無視されて、彼の目が何かをたくらむように細められる。


 何を? と思った次の瞬間、エスコートのために坂本先輩の手に置いていたあたしの右手が掴まれ軽く引かれた。

 そしてその指に坂本先輩の唇が触れる。

 チュッと音が聞こえ、手にキスされたんだと気付いたあたしは笑顔のままで固まってしまう。


 すると今度は右側にいる如月さんがあたしの髪をひと房すくい上げた。

「そうだな、やっと見つけた美しい《かぐや姫》……。今度は手に入れるために全力を出させてもらう」

 そう宣言し、髪にキスをされた。


 んなっ⁉


 その言葉と行為に流石に少し頬が引きつる。

 それでも頑張って取り繕おうとしていたのに……。


「この二年、ずっと会いたかった。ずっと欲しかった」

 左隣にいる八神さんがグッと近付いて、あたしの頭――こめかみの上辺りにキスをする。

「っっっ⁉」

「これからは本気で奪いに行くから、覚悟しておけよ?」

 呼吸すらも数秒止めてしまったあたしに、八神さんは不敵な笑みを浮かべて告げた。


 いっそ今すぐ逃げてしまいたい気持ちを何とか抑え、あたしは三人のお誘いをお断りする。


「………………全力で、ご遠慮します」