坂本先輩は口にした通りあたしの眼鏡を外す。

 それと同時に、両隣にいる総長たちがあたしのおさげを結んでいる髪ゴムを取った。


 眼鏡が外れたことで少しの解放感を覚える。
 しっかり結われていた三つ編みがスルスルと(ほど)けていくのを感じる。

 軽く伏せてた顔を上げ、あたしは向けられている視線を一身に受け止めた。


 ザワザワと騒がしかった階下の一般生徒たちが、波が引くように静かになっていく。

 あたしはそんな彼らを軽く見渡してから――ふわりと笑みを浮かべた。


「っ!」
「わぁ……」
「んなっ⁉」

 息を呑む音。感嘆のため息。驚きの声。
 それらの音でまた少し騒がしくなった様子を見ながら、あたしは浮かべている笑顔が引きつらないよう頑張っていた。


 あたしはお姫様。
 今だけはお姫様。

 そう言い聞かせていないと今すぐこの場から逃げ出したくなってくる。

 注目されるのは多少慣れているけれど、こういうお披露目とか自分の容姿を見せつけるみたいなことは苦手だから……。


 ううぅ……早く教室戻りたいよぉ……。

 あたしは笑顔の裏で泣きたい気持ちになりながらそう思っていた。


 あとは坂本先輩にエスコートされながら階段を下りて、食堂を出ればこの小芝居も終わりだ。

 だからすぐにでも足を進めたかったんだけど……。