「……う……ろう……起きろよ、司狼」

「……んぁ?」

 肩を揺すられて、俺は目を覚ました。

 何か疲れたなと思って奥のソファーに横になっていたんだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。


 起き上がり、あくびを嚙み殺して俺を起こした男を見た。

 稲垣(いながき) 孝紀(こうき)
 一応《月帝》のNO.2を務めている男だ。

 孝紀は見た目も悪くはないし、副総長を務めるだけあってケンカも強い。

 それに俺のフォローを良くしてくれたりと頭もいい。


 ある意味パーフェクトな男なんだが……。


「孝紀、気配消すなっていつも言ってんだろうが」

「あのなぁ……。いつも言ってるけど、俺は気配消してるつもりはねぇっつーの」

 呆れたように言い返してくる孝紀。


 そう、どんなにパーフェクトな男でもこの稲垣 孝紀という男は……存在が空気なんだ。

 自分から動いて名乗り出たりしない限りほぼいる事すら気付かれない。



 さっき、転入生の女がこの部屋に来た時もそうだ。

 俺のすぐ横に孝紀はいたというのに、あの女はそこに誰かがいることにすら気付いていなかった。

 色付き眼鏡をしていたから分かりづらかったが、視線が一度も孝紀の方へ行かなかったのは確かだから間違いないだろう。