「……母親以外で俺達を見分けられた女って、あんたが初めてなんだよなぁ……」

 ゆっくりと視線をこちらに向ける明人くん。

「なぁ、あんた名前なんだっけ?」

 明人くんに続くようにあたしを見る勇人くん。


 何だろうこれ。

 答えちゃいけない気がするけど、答えないとそれはそれでまずい状況になりそうな予感が……。


『名前、教えろよ』

 同じ声が、重なった。

 二人分の圧が声に乗せられたような気がして……可愛い顔なのに、その目がギラリと光ったような気がして……。


「み……美来です……」

 つい、答えてしまった。


 すると二人はさっきまでの圧が嘘のようにニッコリと笑った。

「美来……ね。改めて自己紹介するけど、俺は(もり) 勇人」

「俺は森 明人だ。かなちゃん共々よろしくな、美来」

「え? 何でいきなり呼び捨て――」


『ん?』

 ニッコリ笑顔なのに、圧が凄い。

 さっきよりはマシだけど、あたしの意見をねじ伏せようとしてることが良く分かる。


「……いえ、ナンデモナイデス」

 サッと目を逸らしてそう答えた。


 どうしてだろう。

 関わりたくなんかないのに、何故か気に入られちゃったのは……。


 せめてもの救いはこの二人は隣のクラスで、そこまであたしに接触する機会はなさそうだということだろうか。

 構われるならむしろ奏だよね?


 そう単純にはいかないような気はしたけれど、今は現実逃避がしたかった。


 あたしはニコニコしながら両脇を固めてくる双子にビクビクしつつ、先に如月さんが歩いて行った方へと足を進めたのだった。