「珍しく長湯だったな? ほら明人、お前も腕何か所かすりむいてただろ? 薬塗っとけよ」

 ソファーの背もたれ越しに振り向いて薬を差し出した。


「……」

 でも、何か考え事をしているのか明人からの反応はない。

 しかもちゃんと髪を拭いてないのか、赤く染めている髪から水滴が結構滴っていた。


「おい、どうしたんだ?」

 明らかにおかしい様子に、俺は立ち上がって明人の方へ行く。

 目の前に立っても反応が無いから、とりあえず肩に掛かっているタオルで髪をわしゃわしゃと拭いてやった。


「……なぁ、勇人……」
 タオルと髪の間から、ポツリと呼ばれる。

「ん? なんだ?」
 髪を拭いてやりながら聞き返す。

「……今日の美来、どう思った?」

 ピタッ

 思わず手が止まった。


 今日の美来。

 それはどう考えても数時間前に見た《かぐや姫》の美来のことだろう。

 《かぐや姫》の美来は、想像していた以上に綺麗だった。


 月明りの下たたずむ姿だけでもドキリとするのに、その月を見上げる様はまさに《かぐや姫》を連想させたし……。

 それに、あの力強い心に響く歌声。

 抗争を止めろ、という思いが伝わってきた。