バイト先の店では営業スマイルだとか言ってそれなりに愛想を振りまいてるが、学校ではほとんど笑いもしないこいつがここまで嬉しそうに語るとか。

 幼馴染としてはまあ喜ばしいと言える。


 ま、だからといってあの女――美来を諦めることはしないがな。


「泣かれるのは面倒だから極力しねぇけどよ……。想定外の場合は仕方ねぇからな?」

 後からグチグチ言われても面倒だから先に断っておく。


 だいたいあのときのキスだって、あれで泣くとは思ってなかったからな……。

 あー、そういう意味でも育て方考えねぇと。


 そう考えると面倒だとも思ったが、さっきの月を睨んでいた表情を思い起こすとそれすらも楽しく思える。

 あんな風に睨まれるのも良いかも知れないが、それが溶けて俺を求めるようになる姿も見てみたい。


 考えるだけでゾクリと心が震える。


 最近退屈だったし、良い獲物が見つかった気分だ。

「ああ……これからが楽しそうだな」

 誰に聞かせるでもなく、俺は高揚する心のままに笑った。