目の近くから双眼鏡を遠ざけ、俺は何とも形容しがたい興奮状態に襲われた。


『面白いものが見られるかもしれない』

 そう言われてこのバカでかい学校のバカでかい校庭を見晴らせる場所に来た。

 丁度簡易ステージが設置されたのとは反対の場所にある倉庫の屋根の上。


 お遊びの抗争も、ステージの様子も良く見えた。


「すげぇな……あんまし期待してなかったけど、確かに面白いもの見れたな」

 俺より少し後ろの位置で立ったまま同じ光景を見ていた連が楽し気に笑う。

「ああ……そうだな」

 同意しながら、ここに誘った奴が言っていた『面白いもの』とは多分違っただろうが、と少し考える。

 あいつの目的はこの抗争を悪化させて八神と如月を決別させることだったはずだ。

 こんな収まり方は望んでなかっただろうな。


「美来すごーい! 可愛い上に歌も上手いんだ。今度一緒にカラオケ行きたいなー」

 場違いなほどに明るく言ってのけたのは隣に座る遥華だ。

 そういえばこの間あの女と「連絡先交換したよー」って自慢げに話してたか。


 あのときは「あっそ」としか返さなかったが、これは使えるかもしれない。


 俺は美来が去って行ったステージに視線を戻す。