「美来、帰らねぇのか?」

 何かあったのか、と心配そうな顔をする久保くん。


 あたしが抗争のことを知っていると三人は知らない。

 だから、気遣う言葉もかけることは出来ない。


 仕方ないから、あたしはせめて心配かけないようにしようと思った。


「帰るよ。今はちょっと奏たちを待っていたの」

 心配かけないように笑顔を作る。


 顔に出やすいっていうあたしの表情筋、頑張って。

 自分に言い聞かせながら、そうやって心配をかけまいと笑った。


「ん? ああ、そうなのか」

 表情筋の頑張りが功を奏したのか、あたしの内心はバレずに済んだみたい。


「明人、俺らそろそろ行かねぇと……」

 勇人くんがあたしを気にしつつもそう言うと、明人くんも「ああ」と答えて教室を出る。

「美来、じゃあ明日な!」
「生徒会長にこき使わされそうになったら俺たちのところに避難してきていいからな」

 なんて軽口を叩きながら去っていく二人を手を振って見送った。


「あー……じゃあ俺も行くわ。美来、ちゃんと帰れよ?」

「うん」

 久保くんもそう言って教室を出ようとする。

 その背中に、ケガしないでねってまた言いそうになって慌てて口を押さえた。


 久保くんはドアのところでもう一度あたしを見ると、片手をあげて「じゃ」と去って行く。


 本当に、みんな無事に明日を迎えられるといい。

 そう思いながら見送った。