でも、だからと言ってあたしから「そうです」なんて言うわけにもいかない。

 万が一当てずっぽうだった場合墓穴を掘ることになっちゃうから。


 いまだに眼鏡から手を離せないでいるあたしに、如月さんは「まあいい」と言ってあたしの後ろに回った。

 警戒して振り返ろうとすると、静かな低い声で「そのままでいろ」と命じられる。


 え? 何? あたし何されるの?


 いっそ今のうちに逃げた方が良いんじゃないかと思っていると、解かれた髪を後ろに流すように如月さんの両手が首の後ろに入って流れて行った。

 サラサラと全ての髪が落ちていく感覚と共に如月さんが言う。


「とりあえず今は、俺を癒してくれ……」

「い、癒す?」

 って何をどうやって?


 本気で分からず聞き返すと。

「お前はそのままでいればいい」

 と返される。


 え? このまま座っていればいいってこと?


 良く分からなくて眼鏡を掴んだ手もそのままにしていると、背中に流された髪をゆっくり手で梳かれた。

「っ」

 頭皮に伝わる感覚でどこを触れているのかが分かる。

 何とも言えない感覚に恥ずかしくなるけれど、如月さんは無言であたしの髪を梳き続けている。