「っ!? てめっ! 何す――」
「だがな久保、お前はもう美来に近付くな」

 ことさら低い声で告げる。

「お、ま……」
 驚愕の表情と詰まる言葉。

 本気の俺を目にしたやつは、大体こんな顔をする。

 きっと今の俺はとても冷たい目をしてるんだろう。
 美来にも、ほとんど見せない表情。


 だって、仕方ないじゃないか。

 多少スレて育ってしまったけれど、それでも天真爛漫(てんしんらんまん)なのが美来だ。
 そして俺はそれを守るって小学生の頃には決めていた。

 自分の敵になった相手には容赦しなくなったけど、それでもほだされやすい美来。
 純粋な好意を向けられれば、敵だったことも忘れて仲良く接してしまう甘ちゃん。

 そんな美来を守らなきゃならないんだ。

 俺がことさら冷酷になるしかないじゃないか。


「美来を泣かせるやつ、傷つけるやつは決して許さない」
「っ!」

 息を呑む久保に、もう一度告げる。

「だから、お前は近付くな」

 言い放つと手を離し、寝ている美来の元へ行く。


「美来、帰るぞ? 立てるか?」

 頬をペチペチと叩き、起こす。

 寝たままでも連れていけないわけじゃないが、朦朧としていても立ってくれた方が安全だ。