妖しく光る目が、あたしを金縛りにでもあわせているかのように。

「ねえ、教えて? 俺に君の声を聞かせて? 俺の心を奪った、さっきの歌声のように」


 え? と聞き返す言葉は声にならなかった。

 なぜなら、あたしの唇は塞がれてしまっていたから。


 聞かせてと口にした、彼の唇によって。


 触れるだけのキスは軽くついばむように何度か触れてから離れて行く。

 驚きで見開かれたあたしの目に映ったのは、爽やかな笑顔じゃなくて、妖しく(つや)やかな誘うような笑みだった。


「ねぇ? 君は優しくされたい? それとも、ドロドロに甘やかされたい?」

 頬の手がスルリと顎のラインを撫でる。


「あ……」

 喉が震えた。

 彼の妖艶さに当てられる。


「あわわわわ」

 あたしは完全にキャパオーバーしていた。


 それでも何とか声を出せたからか、体も動くようになる。

 ベリッと効果音がつきそうな勢いで彼から離れると、「ごめんなさい!!」と叫んで逃げ出した。


「あ、待って!」

 引き留める声は聞こえたけれど、あたしの足の方が速いのか追いかけてくる気配はない。


 そのままあたしは人の多い場所へ向かう。