当然と言えば当然の質問なんだけど、どう答えればいいのか分からなくてつい言葉に詰まる。

 そのまま追及されるものだと思ったけれど、一度視線をそらした彼は少し妖しい光を瞳に宿して質問を変えた。


「ああ、違うな。そんなことよりも君のことが知りたい」

「え?」

「君の名前は? どこに住んでいるの?」

「え? え?」

 立て続けにされる質問に、答えるよりも疑問符がいくつも浮かぶ。


 何であんなところにいたか聞きたいのはこっちも同じだし。
 名前だってあたしもこの人のこと知らない。
 そんな状態で住んでる場所まで教えるとかありえないでしょ!?


 思うのに、言葉にする前に次の質問が来る。

 しかも、どんどん顔が近付いているような……。


 手を掴まれているから自分からあまり距離を取れない。

 軽く仰け反るようになると、もう片方の手があたしの頬を包んだ。


 ここまで来ると完全にアウトだ。
 逃げなきゃ何をされるか分からない。

 そう思ったし、いつもなら思った時点で行動に移していた。


 でも、逃げられない。

 さっきの不良達のように強い力で押さえられているわけじゃないのに、どうしてか動けなかった。